「カワイイ」の生存戦略

水曜日, 11. 28. 2012  –  Category: Featured, ネタ

 今井麻美という声優がいる。(今宿麻美ではない)
 最近の代表作というと、アイマスだろうか。イマジンとか、ミンゴスとかいう愛称で人気の役者さんだ。音楽活動も精力的に行っており、顔出しの仕事も多い、いわゆる「アイドル声優」的な売り出し方をされているのだが、イベントやラジオで、ファンや共演者がミンゴスに向かって「かわいいーー!!」と言うと、彼女が「ギャー!! やめてー!」とか「あ゛あ゛あ゛ーーーきこえないーーー!!!」とかいうリアクションをするのが半ばネタになっている。
 単純に照れくさいとか、「アイドル」というには厳しい年齢(psiより年上だ)だとか、そういうこともあるかもしれない。だが、本人も声や演技はもちろん、ルックスやキャラクターに対しても「かわいい」とファンに思われることを「込み」で仕事をもらっていることを否定するほど子どもでも、アマチュアでもないだろう。むしろ、プロ意識は非常に高いかただとお見受けする。
 それでも、「かわいい」といわれることを頑なに拒む姿勢をとり続ける彼女に、なんとなく共感してしまう。この気持ち、女子をこじらせた経験のないヤツには分かるまい。

 日本の女子スクールカーストにおいて、「モテ」もしくはそれに連動する「かわいさ」が評価軸になっているというのは割と広くコンセンサスの得られている話らしいのだが、こと九十年代後半においてはこの評価軸に対して、画期的な発明がなされていることを無視して女子高生論は語れない。画期的な発明、すなわち、コギャル文化である。
 コギャル文化は、女子ヒエラルキーの評価軸を「かわいさ」や「モテ」から引き剥がした。
 もとは安室奈美恵の「人形のような人工的なかわいさ」やリルキムのような「作られたセックスアピール」を志向していたはずが、「かわいさ」や「セックスアピール」が抜け落ちて「人工的」であったり「作り物っぽさ」であったりだけが残り、さらにそれは初期にはハイビスカスの造花やキティちゃんグッズ、以降、スーパールーズソックス、ガングロ、白リップに白アイメイクと記号化されていく。

(余談だが、95年か96年頃、ほんの一週間だけ、それも渋谷から青山にかけたごく限られた地域で紺色のハイソックス、いわゆる紺ハイが流行ったことがあった。今では割と定着している紺ハイが、その時定着せず一瞬で消えたのは、ハイソックスは足のラインが出るので作り物っぽさに欠けたからだ)

 極端な話、顔が可愛いか、スタイルがいいか、男にモテるか、そんなことは二の次以下で、そんなことよりもルーズを履いているかどうかの方が、女子ヒエラルキーにおいて「イケてる」と評価されるにあたって重要になった。逆に言えば、これまで生来のルックスでは「イケ」レースに参加できずにスクールカーストの底辺をさまようしかなかった人間も、ルーズを履いて日サロに通えば「イケ」組に入れる世界に変わったのだ。
 このコギャル文化は「作り物っぽさ」を志向する点でCUTIE文化圏と、記号化されたクレデンシャルを使用する点でヤンキー文化圏と通底するのだが、その話は長くなるので割愛。

 psiはといえば、そんな発明がなされる前に早々に兜を脱ぎ、毎日アノラックとジーンズで登校し、「いや、これ、イケてるとかイケてないとかそういうんじゃないんで、UKギタポのコスプレ的な? マンチェスターから来ました的な? いや、マジ、あの勘弁して下さい」みたいな感じで女子ヒエラルキーから離脱していたので、ルーズを装備して「イケ」免罪符を手に入れる必要はなかったのだが、今から考えるときわどい戦略だったかもしれない。何しろ、以前なら放っておいても「非モテ」という最下層カーストが形成されるところが、誰でも最下層カーストから抜け出せるようにシステムが変わったのだ。どのクラスタに所属しているかというのがより重要視されるようになっていた。下手したら、クラスタごと最下層カースト行きになるだけで、「ヒエラルキーから離脱」なんてことがあまり意味がなくなった時代でもあったのだ。

 psiの話はどうでもいい。

 とにかく、スクールカーストのz軸を「かわいい」から引き剥がす代わりに軸となったのは、「カワイイ」だった。「カワイイ」は、それが実際に「かわいい」かどうかは全く気にしない。コギャルが「カワイイ」と言ったらそれが「カワイイ」になる。マスコミも、次に何が「カワイイ」とされるのか、右往左往するばかりだった。そうしてコギャルたちは次々に記号化されたクレデンシャルを生み出して行った。当然のことだ。それらの記号がなければ、生来の「かわいさ」で勝負しなければならなくなる。

 その記号バブルがいつ、どのように弾けたのか、残念ながら私は知らない。その頃には女子高生ではなくなっていたので。オッサンのクセに当事者顏で女子高生を語っていた宮台真司や鶴見済もいつのまにかどこかに消えていた。

 重要なのは、そうした「かわいい」レースに乗らないという生存戦略を採ってきた年代の女子にとって、「かわいい!」と言われることは、素っ裸で「かわいい」選手権のリングに引っ張り出されるのに等しいということなのだ。全部物理にステ振りしたのにギリメカラ出てきたみたいな話だ。そりゃ、ギャー!とくらいは言いたくなる。

 したがって、ミンゴスの「ギャー!」はは行き過ぎた謙遜とかじゃなくて、わりと本気でビビっていると思いますのでファンの方はイジるのも程々にしてあげてください。
 

わーにん! わーにん!

女子をこじらせている人は大体上記のような特性を持ちますが、中には、目を血走らせながら「俺全然試験勉強してねーんだけど、やべーよ」系の人がいるので注意が必要です。
 

※ あ、ちなみに本日3rd album “precious sounds”発売日ですね。おめでとうございます。

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