2011/03/11の記録 脱出編

木曜日, 03. 11. 2021  –  Category: Featured, 日常

本日は東日本大震災から10年ということで、ずっと言えなかった懺悔をします。
心情的に、あまり話をする気にならなかったというのと、別に津波で家や家族が流されたとかでもなく大したことない話だとか、細かい話をすると特定されるからとか、まあいろいろあってこのタイミングになりました。
「あれこれ自分知ってるやつじゃね?」とか「もしやこれ弊社じゃね?」とか不穏な気持ちが出てきたら軽くラジオ体操でもして忘れてください。いいなpsiはお前と一切関係ない。
では開始。

=====================

地震発生当時、psiは会社のマシンルームにいた。
お客様向けのデータセンターではなく、社内用の検証などを行うマシンルームなので、狭い部屋にラックが立ち並んでいて、シスコ社のネットワーク機器を中心に、各社のネットワーク機器やらサーバーが積まれていて、ラック間の通路も狭く、検証用に出し入れも頻繁にあるのでビス止めなどせずにただラックに積まれているだけという機器もたくさんあるようなそういう狭い部屋。
床下配線用に床上げされている分天井も低く、壁は有孔ボードでパーティションされているような感じ。

そういう部屋のラック近くの机でひとり、ネットワーク機器につないだPCでping打ったりconfig弄ったりログとったり、そういうことをしてたときに、地震が始まった。
揺れを感じてしばらくは普通に作業をしてたが、すぐにヤバめの揺れになってきた。だが、机にもぐるという選択肢はなかった。
一つはひとり用の机の下にはダンボールとか押し込まれていて物理的にスペースがないというのと、もう一つはこの部屋で机の下にもぐったら怪我は防げても生き埋めになって外に出られないし誰も助けに来れないみたいな状況になる危険性の方が高いと判断したから。

弊社の事業所に限らないとは思うけど、セキュリティレベルによって何段階かのアクセス制限があって、誰でも入れる場所、社員証があれば入れるところ、特別な登録が必要なところなどがあり、その中でも重要度とかに応じて適宜認証が必要になる。
マシンルームは普通のオフィススペース(社員証が必要)からは最低でも一回認証が必要なところにあって、更にお客様のデータを取り扱う可能性があるとかGA前の製品がおいてある可能性があるとかそういうところには更にもう一段階の認証がある。お客様のサーバーをお預かりして本番システムを動かしているなんていうところはさらにもっと厳重だ。

で、psiのいたマシンルームは基本的には社内検証向けの部屋だけど、たまにお客様システムのトラブル対応で本番環境のconfigを使った再現環境を作ったりの可能性があるし、同じマシンルームを使用している他部門はGA前製品とか使っている可能性がある。
なので、フロアの廊下から一度認証ドアを通って更に細い通路に入り、その更に先にようやく部屋へ入るための認証扉がある、という感じになっていた。

地震のとき、机に隠れるのと同じくらい重要なのが火の元の確認と出口確保だ。
前述の通り、psiのいる部屋は何個も扉を通らないと出られないし通路も細いので塞がる可能性がある。ある程度揺れがでかくなった段階でpsiがまっさきに考えたのは、出口確保したほうがいんじゃね? ということだった。
psiの座っていた位置から部屋の出口まで行くには、ラック間の隙間を通っていかねばならず、飛び出してきた機器が頭を直撃したらわりとたぶん死ぬやつ。
その頃にはもう揺れはかなり大きくなっていて、ラックはぐわんぐわん揺れているし、ラックマウントしていなかった機器は滑ってラックから20cmほど揺れに合わせて出たり引っ込んだりしている。
あと、無事に出口までついたとして、出口確保のために開けっ放しておくと多分警報が鳴る。セキュリティ的によろしくない。セキュリティ的にとか言ってる場合ではないのはわかるけど火事場泥棒とかあるし、必要ないところでむやみに不用心にすることもない。
という判断の難しさがあったところに、なんと、部屋にpsiの他に人がいたらしく、出口の扉をあける気配がした。ラックの影でお互い無言で作業していたので気づかなかったのだが、先輩のT氏であるらしかった。
出口確保してくれるのは嬉しいのだが、psiに気づいていないまま外に出て「この部屋は僕だけでしたのでもう大丈夫です」とか言って助けが来なくなる展開はヤバいので存在を知らせなければ! と焦るpsi。
若干揺れが落ち着き、48ポートスイッチ頭蓋粉砕事故を免れそうだったので、今だとばかりに入り口に駆け寄り、T氏に声をかける。案の定「えっいたの」みたいな反応であり危なかった。
扉を確保して、T氏と「外に避難する感じですかね?」みたいな話をした数秒の間に、また揺れが強くなった。多分一番強かったタイミングではないかと思う。
件の細い通路、白い50-60cmのパネルが敷き詰められており、壁もパネルが繰り返しパターンで続いていく。完全に見た目がメガテンの3Dダンジョン(なんちゃらタワーとかそういうLAWの組織に違いない)なんだけど、それが揺れでぐにゃぐにゃに曲がっている。ワープギミックだ。
あの、鉛筆のおしりをもってびよんびよんて振るとぐねぐねして見えるあれの原理で、床も壁もぐねっぐねになっており体感でも上下左右に50cmくらいの振れ幅で揺れてる感じがしてまったく歩けない。これはとても非現実体験だった。あっいま本当にヤベェ状況にいる、トールマンがICBMぶちかましてるくらいの危機感であたらなければならないシチュエーションなのだと急に背筋が凍った。

T氏と「さすがにこれは動けないっすね!」みたいに声を掛け合い、ちょっとおさまってから移動することにした。
揺れが少しおさまり(といっても歩けなくはない、程度)、先程は急いでT氏に存在を伝えなくてはと何も持たずに来たけど、外に避難するなら少なくともマネージャーとかと連絡取るための社用ケータイは必要だし、扉のセキュリティがどうなるかわからないが事後処理で業者とかは確実に出入りするからPCも持った方がベターだ。だいたい、今後多分まあまあ命の危険がないくらいの状況なら仕事させられる羽目になるしその時PCないと余計な手間とか損を被るのは自分だ。

……と、思って自分が座っていた場所まで戻ると、そこは瓦礫に埋まっていた。

まあ、瓦礫っていうのは話を盛ってんだけど、マシンルームの壁の有孔ボードが倒れてきて(天井の溝にはめ込んでいたのが揺れでずれて外れたと思われる)ついでに近くに積んであった空きダンボールとかが雪崩をうってさっきまでpsiがいた場所を埋め尽くして山になっていた。
有孔ボードの壁程度に押しつぶされても圧死とか全然しないけど、ビジュアル的になかなかインパクトがある。危なかった……
PCはなんとか掘り出したが、電源ケーブルとかロールオーバーケーブルとかその他諸々接続先までたどってどうこうする時間もないので、とにかく全部引っこ抜いて本体とケータイだけをとって戻り、T氏と建屋の外へと避難することにした。

もう一つの認証扉を出て、多分階段があるであろう方向へぐにゃぐにゃの道を進む。ぐにゃぐにゃなのは視覚効果なので、実際にぐにゃぐにゃしているわけではない。壁を伝えば歩けるのだ! ただ床については配線スペースのフレームにパネルを乗っけてるだけなので、揺れてもほんとにすっぽ抜けたりしないのかは若干不安だった。確かマンホールってどの向きでも蓋が下に落ちないようにあの形になってるんだよな。この床のパネル、正方形なんだが……

エレベーターホールを横目にもう少し進めば階段と思われるのだが、廊下とエレベーターホールの間はめっちゃデカい防火扉がばったんばったん揺れていた。ちゃんと閉まらないと意味ないのでは……
とはいえこんなところ防火扉になっていたのか! という驚きもあった。

psiの両親はともに一級建築士、しかも構造設計専攻で修士とっている。特に免震構造についてはとりまpsiの父に訊け的な(少なくとも大手ゼネコン界隈では)奴という家庭で育ったので、事業所の建屋の構造自体がどうこうなる心配はこの時点で全然していなかった。
内装がぶっ壊れるのはむしろ構造を安定させるために大事くらいに思っており、ほら、フォーミュラカーだってカウルがぶっ壊れることでドライバーを衝撃から守るわけで……とか思っていたわけだが、避難用の階段室の扉を開けたら壁という壁がヒビいっており、割れた石膏ボードが揺れで擦れあわせて粉が舞い散り、空気清浄機のない喫煙室でもここまで煙くないというレベルに真っ白になっていたのには若干ショックをうけた。
防火扉はブラブラしてるしビル棟の境目は無造作に引きちぎったみたいな断面で断裂してるし、天井は落ちてるし、壁はヒビいって煙いし、ここは地獄か。
いくらドライバーがピンピンして降りてきてもタイヤバリヤに突っ込んで丸めたティッシュみたいになってる車みるのはショックなんだよ!

ジャンボ機が側面から突っ込んだなんていう衝撃は設計者は想定してないので階段で避難している途中にビルが折れて崩れたりの危険があるけど、地震なんで、そういう心配はいらないし、よっぽどアホがいない限りはオフィスビルで火災の心配も少ないし、ちょっと煙いだけ、階段降りれば終わり、淡々と降りるだけです。
あ、そうそう、マシンルームのあったフロアは普段から人がいないのでpsiとT氏くらいしかいなくて寂しかったですが、階段には他のフロアから避難すると思しき人達がちらほらいて少し安心しました。
そして、ようやく1階について、外への扉を開け、足を踏み出し――――

ガシャン!!!!!

psiたちのすぐ脇に、畳くらいの鉄板が落下してグチャッて。
上を見ると8-10階くらいのところに棟と棟をつなぐジャンクションがあり、これは耐震設計の棟と免震設計の棟の揺れの差異を吸収して壊れるべき部分なので壊れるのは別にいいんですけど、その外装をよりによって鉄板で覆ったっぽいんですよね。それが剥がれて、なう、落ちてきた。なう。
これあと数m階段の出口の位置が違ったら5000%死んでたやつーーーーー!!!!!!

待機編に続く。

Tags:

Leave a Reply


Recent Entries

Category

Tag Cloud

Twitter

Google AdSense

Archives

Last.fm

more on last.fm